この記事のポイント
- データを集めるだけでなく、厨房・配膳・会計の仕事へつなげている。
- デジローは注文の効率と、選ぶ楽しさを組み合わせている。
- 業績改善とDX単体の効果は分けて読み、小さな現場に応用する。
スシローのDXは、店内の仕事をどう変えたか
飲食店の忙しさは、注文を聞く時間だけでは決まりません。入口での案内、厨房の判断、商品を運ぶ動き、会計、持ち帰りの受け渡しまでが重なって、現場の負担になります。スシローのDXは、この一連の流れを複数の仕組みで改善している点に特徴があります。
表は左右にスクロールできます
| 場面 | 主な仕組み | 改善の狙い |
|---|---|---|
| 来店・受付 | アプリ受付・予約、自動案内 | 受付や案内を待つ負担を減らす |
| 厨房・提供 | 需要予測、キッチン内オートレーン | 何をどれだけ用意するかの判断と、運ぶ作業を支える |
| 注文・食事 | タッチパネル、デジロー | 注文しやすさと、商品を見つける楽しさを高める |
| 会計・持ち帰り | セルフレジ、画像認識による自動会計、自動土産ロッカー | 皿確認や精算、商品受け渡しの手間を分ける |
表は公式発表にある取り組みを場面別に整理したものです。すべての機器が全店舗にそろっている、という意味ではありません。
データを集めて、厨房の判断までつなぐ
スシローの公式沿革には、2002年2月の「回転すし総合管理システム」開発が記載されています。最近のAIブームに合わせて始まった取り組みではなく、店舗の情報を記録し、運営に使う土台を長く積み重ねてきました。
出典:スシロー公式沿革
2022年に公表されたFPCJの取材企画では、ICタグ付きの皿から商品の動きを把握し、厨房で1分後・15分後の需要予測を参照する当時の仕組みが紹介されています。記録を本社の集計だけに使うのではなく、「次に何を、どれだけ用意するか」という現場の判断につなげていたことが分かります。
このICタグの説明は2022年当時の資料に基づきます。現在の全店が同一の運用であるとは扱っていません。
F&LCのDX方針でも、AIによる需要予測や取引先とのデータ連携を、調達・物流・店舗運営の改善へつなげる考え方が示されています。データ分析そのものより、分析を受けて仕事がどう変わるかが重要です。
自動化するのは、人が繰り返していた仕事
セルフレジを置くだけでは、その前にスタッフがお皿を確認する仕事は残ります。ISPが2020年12月に発表した画像認識による自動会計は、お客様が取った皿をカメラで認識し、その確認作業を不要にする仕組みです。発表時点でセルフレジは全店導入済みでしたが、画像認識の自動会計は実店舗への導入開始であり、導入範囲は別に読む必要があります。

写真:RuinDig/Yuki Uchida / Wikimedia Commons(CC BY 4.0)。配布サムネイルを使用、表示サイズを調整。
持ち帰りには、決済後に発行されるコードを使って商品を受け取る自動土産ロッカーもあります。入口の案内、店内の会計、持ち帰りの受け渡しをそれぞれ整理することで、一人のスタッフに異なる用事が集中しにくい流れをつくれます。これは、仕組みを現場の動きに置き換えて考える際の参考になります。
なお、アプリの予約は、指定時刻の着席を保証する仕組みではありません。利用者に何を約束できるのかまで含めて設計することも、サービスのデジタル化では欠かせません。
出典:公式FAQ
デジローは、効率だけでなく「選ぶ楽しさ」をつくる
大型のタッチ画面にすしが流れる「デジロー」は、商品を見て選び、その場で注文する仕組みです。商品情報やクイズなども組み合わせ、注文端末を食事中の体験として設計しています。
2023年9月の導入発表では、江坂店・新宿西口店・天白焼山店という初期の3店舗が案内されました。公式の公表実績は、2025年9月末時点で国内123店舗・海外19店舗。小さな導入範囲から展開を広げてきた経緯を確認できます。この店舗数は、その時点の実績であり、2026年10月現在の総数ではありません。
出典:2023年の導入発表 / 公式の導入実績
DOROSMAの見方
人手を減らすことだけを考えると、お客様が楽しいと感じる部分まで削ってしまうことがあります。デジローの参考になる点は、選ぶ楽しさを画面で表現し直していることです。業務効率と顧客体験を、同時に設計しています。
効果はどう見るか。売上増をDXだけの成果にしない
2026年5月8日の決算説明資料では、国内スシローの2025年10月〜2026年3月の既存店売上高は前年同期比109.0%でした。会社は、デジローによる体験価値向上だけでなく、商品力、キャンペーン、コラボ施策にも言及しています。
したがって、この9%の増収を「デジローだけで生んだ効果」と説明することはできません。実際の業績改善と、その要因をどこまで切り分けられるかは別の話です。
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| 観点 | 確認できること | この情報だけでは断定できないこと |
|---|---|---|
| 会計作業 | 画像認識で、スタッフの皿確認を不要にする仕組みを実店舗へ導入 | 全店共通の削減時間や、人件費の削減率 |
| 顧客体験 | デジローが体験価値向上に寄与したという会社の説明 | 端末だけによる客単価・再来店率の上昇幅 |
| 売上 | 対象期間の国内既存店売上高は前年同期比109.0% | 増収の全額がDXによるものという因果関係 |
小規模な店舗でも、導入後は売上だけでなく、会計にかかる時間、注文の訂正回数、混雑時の待ち時間などを別々に測ると、改善した場所を判断しやすくなります。
なぜ成果につながったのか:4つの成功要因
ここからは、公表された施策をもとにしたDOROSMAの分析です。
1. 現場の判断や動作を変えるところまで設計した
売れ方を可視化して終えるのではなく、厨房での判断や会計の作業を変えています。「情報が見えるようになった」から一歩進み、その情報で誰が何をするかを決めることが、成果へのつながりを強くしたと考えます。
2. 一つの端末ではなく、来店から会計までを見た
注文の受付が速くなっても、厨房や会計に新しい待ちができれば、全体の負担は解消しません。スシローの施策群からは、仕事のつながりを見ながら改善対象を広げてきたことが読み取れます。
3. 小さく始め、段階的に広げた
デジローは初期の少数店舗から展開されました。段階的な導入は、使いやすさや現場の運用を確認し、次の投資判断へ進むための合理的な方法です。全店へ一度に同じ仕組みを入れる必要はありません。
4. お客様の楽しさを、効率化の外に置かなかった
早く注文できることに加え、新しい商品を見つけたり、一緒に食事をする人と選んだりする時間にも価値があります。デジローのように、この体験まで考えることで、改善が「店側の都合」だけで終わりにくくなります。
小さな飲食店なら、何から始めるか
同じ設備をそろえることが、スシローから学ぶことではありません。最初に取り入れたいのは、困っている仕事を具体的にし、その仕事が変わったかを確かめる進め方です。
- 忙しさが集中する一場面を観察する
ピーク時の会計、電話予約、閉店後の売上転記など、現場で負担になっている作業を一つ選びます。
- 今の状態を記録する
所要時間、件数、ミスや手戻りを記録します。最初は紙や表計算でも構いません。
- 小さな範囲で試す
一部の席や一つの業務で始め、利用する人とスタッフの両方が困らないかを見ます。
- 効果を確かめ、次を決める
楽になった時間がどこへ移ったかまで確認します。別の場所に待ちが増えたら、そこを直してから広げます。
たとえば、手書きの予約台帳と顧客情報を一つの仕組みへまとめるだけでも、二重入力や確認の電話を減らせる可能性があります。必要な手段は店によって違います。目指す成果を先に決め、現場で使える形にすることが出発点です。
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参照した資料・公式情報
最終確認:2026年10月12日。記載した実績・条件は、それぞれの資料の対象時点に基づきます。
- あきんどスシロー「会社概要・沿革」:2002年の管理システム開発
- FPCJ「回転すし×DX」プレスツアー(2022年12月1日):当時のICタグ・需要予測
- FOOD & LIFE COMPANIES「DXの取り組み」(PDF):予測・実行指示・全社の方針
- FOOD & LIFE COMPANIES「人や社会とともに」:接客の各工程、デジロー導入実績
- ISPの自動会計システム導入発表(2020年12月2日、PDF)
- FOOD & LIFE COMPANIESのデジロー導入発表(2023年9月27日)
- FOOD & LIFE COMPANIES 2026年度第2四半期決算説明資料(2026年5月8日、本文19頁)
- スシロー「自動土産ロッカー」案内
- スシロー よくあるご質問:アプリ予約・案内について
